〒461−0011 名古屋市東区白壁二丁目1番18号 石川シラカベビル3階 弁護士 寺 本 ますみ TEL 052−973−0885 FAX 052−973−3877 ![]() ![]() |
離婚のはなし その1 |
1 離婚を迷っているとき |
いろいろな理由により夫ないしは妻とどうしてもうまくいかず、「もはや一緒にいるのが苦痛だ。離婚しようか。でも、子供がかわいそうだ。子供のためには離婚しない方がいいのか。」などと悩んでいる方へ。 子供を片親にしたくはない、でも一緒にいるのが辛い、というジレンマに陥っている方は多いと思います。しかし、「子供がある程度自立するまでは」と自分を押し殺して結婚生活を続けることが、かえって子供の成長によくないこともあります。 たとえば母親が父親から暴力や虐待を受けているとき、その姿を子供が見れば大変なショックを受けるでしょう。そこまでいかなくても、いがみ合っている両親のもとで育つ子供は幸せとはいえません。 自分にとって、子供にとって、何が一番いい選択なのかを冷静に考える必要があると思います。 迷っているときは、たとえば離婚や家族問題を専門とするカウンセラーのカウンセリングを受けるのもいいでしょう。カウンセリング料は安くはありませんが、気持ちを落ち着かせ、考えを整理するのに役立つことがあります。 悩み疲れ、睡眠不足になり、うつ病等になる方もみえます。そういうときは、思い切って精神科の医師に相談した方がいいと思います。できれば家族病理に詳しい精神科の医師であるのが理想です。 残念ながら、離婚を迷っている段階で弁護士に相談して頂いてもお役に立てないことの方が多いと思います。弁護士は、心理学や精神科の勉強をしているわけではありません。また人生相談ができるほど人生経験が豊富なわけでもありません(中には例外もいるでしょうが)。離婚をするための手続きや離婚をした場合の財産分与、慰謝料、養育費というような現実的な問題については法律家として意見を述べることができても、あなたやお子さんにとって離婚した方がいいかどうかについては専門家としての意見を述べることはできません。 もちろん、離婚した場合に受けられる金銭給付などの現実的な問題についての知識も、離婚するかしないかの決断に影響を与えるでしょう。そういう意味でなら弁護士に相談するのはいいと思います。 ただ、結婚生活を続けられるかどうかは、パートナーに対して愛情や信頼を持ち続けられるかどうかにかかっているのではないでしょうか。この愛情や信頼についてまだ迷いや悩みがあるうちに弁護士に相談しても解決はつかないでしょう。 そういう段階にあるときは、弁護士ではなくカウンセラーや精神科医の力を借りる方がいいと思います。 そうして気持ちが落ち着き、それでもやはり離婚をしたい、離婚をする、と心が決まったら、そのときにはぜひ弁護士にご相談下さい。 |
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2 離婚を決意したら |
相手が離婚に応じてくれないとき、あるいは子供の親権、財産分与、慰謝料などで話し合いができそうもないとき、離婚は簡単ではありません。離婚は相手との闘いです。しかし、終わりのない闘いではありません。先のことをくよくよ考える前に、今何をすべきかから考えましょう。そういうとき、弁護士は力になるはずです。一緒に闘ってくれる弁護士を見つけましょう。 あなたがまだ相手と同居しているときには、次のことに注意して下さい。 (1) 暴力や虐待があるときは、まず別居を考えて下さい。 相手から暴力や虐待を受けているとき、あるいは受けそうなときは、まずあなたとお子さんの身の安全を確保して下さい。 肉体的暴力があるときはもちろん精神的な虐待であっても、相手と一緒にいては危険です。 暴力や虐待を受け続け、相手の不条理な怒りを買わないようにと気を遣い続けることで消耗してしまい、別居や離婚をする気力もなくなってしまうこともあります。そうならない前に、まず第一に別居を考えるべきです。 経済的な理由等で直ぐに別居が無理な場合は、少しずつでも準備をしておくことです(但し、相手に知られないようにする注意が必要です)。 相手の暴力により怪我をしたときには、必ず医師の診察を受けて下さい。そして、医師には正直に相手の暴力による怪我であることを告げましょう。カルテは5年間は保存されます。後日、診断書の交付を受け、離婚の裁判の証拠とすることもできます。 緊急の肉体的危険があるときは、一刻も早く次のような相談機関に相談して下さい。 <相談機関> ア 配偶者暴力相談支援センター一覧 相談や相談機関の紹介、カウンセリング、被害者及びその同伴家族の一時保護、自立して生活することを促進するための情報提供その他の援助、被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供その他の援助、保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助、をしてくれます。 イ 弁護士会の犯罪被害者支援センター 各弁護士会にお問い合わせ下さい。各地の弁護士会の連絡先はこちら→ ![]() また、外国人のための配偶者からの暴力に関する説明はこちら→ ![]() <保護命令> 「身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(精神的暴力・性的暴力)」を受けている場合には、裁判所に申立てをして次のような保護命令を出してもらえます(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律「DV法」)。 @ 被害者への接近禁止命令 A 被害者への電話等禁止命令 B 被害者の子への接近禁止命令(子が15歳以上である場合はその同意が必要) C 被害者の親族等への接近禁止命令 D 退去命令 保護命令についての裁判所の説明はこちら→ ![]() 申立手数料、Q&Aについての裁判所の説明はこちら→ ![]() ![]() 申立書書式はこちら→ ![]() (2) 別居する前にやっておいた方がいいこと @ 不貞のあるときはその証拠を得ておきましょう。 相手から暴力や虐待を受けるおそれがないときは、別居前に相手のことをよく知っておいた方がその後の手続を有利に進めることができます。同居していても夫婦の関係が破綻しているときは、相手に対する関心も薄れがちです。 しかし、離婚となれば、その後の交渉、調停、裁判において、相手のことを知らないままでは戦えません。 相手に不貞があるときは、不貞の相手(住所、仕事先、家族関係等)、不貞の程度(交際期間や程度、子の有無等)について証拠を得ておいた方が有利です。 相手が不貞を認めないときはもちろん、不貞を認めていてもどの程度の交際だったのか裁判になったときに争われることもあるので、何らかの証拠が必要になることがあります。 手紙、携帯電話やパソコンの電子メール(プリントアウトしたり、携帯電話の画面を写真に撮っておいた方がいいでしょう)、日記、手帳、写真等も証拠となります。 但し、尾行等を興信所に依頼するときには注意が必要です。調査費用が高くて請求できる慰謝料などの金額以上だったり、きちんと調査をしない悪質な業者もあります。不貞に気づいて一時的にカッとなり興信所と契約をしてしまうと、なかなか解約に応じてもらえないこともあります。興信所に依頼するときは、落ち着いてから、興信所の説明をよく聞いて信頼できるかどうかを判断した上で契約をするべきです。 A 結婚してから夫婦で築き上げた財産(共有財産)や相手の収入・借金等についての情報や証拠も得ておきましょう。 共有財産は名義がどちらであっても財産分与の対象になります。これに対して、相手が親から相続した財産、相手の身の回り品(衣類、装身具等社会通念上それぞれの専用品とみられる物)、結婚前からそれぞれが所有していた物など(例えば花嫁道具)は共有財産にはなりません(特有財産といいます)。 共有財産については、ご自身の財産でもあるわけですから全て把握しておきまししょう。 預金、保険、株式などの有価証券等のリストを作成し、預金通帳、保険証券、株券等はコピーを取っておきましょう。預金などは、別居後に弁護士に依頼してから調査をすることも可能ですが、どこの銀行のどこの支店に預金があるのかをきちんと把握しておかないと調査が難しくなります。預金は過去に遡って銀行で取引明細を発行してくれますので、それを入手しておく方がいいでしょう。また、クレジットカードの使用明細、請求書等もコピーしておくべきです。相手に思わぬ借金があるかもしれず、また不貞や浪費の証拠となることもあるからです。 また、特有財産についても、あなたがその維持に貢献しているような場合には財産分与の対象となることもありますし、慰謝料の支払能力など相手の資力を知る上での資料となりますので、できる範囲で調査をしておきましょう。 但し、これらの調査は相手に知られないようにして下さい。知られることで、財産を隠される可能性もあります。 B 相手が相手名義の共有財産を売却したり、預金を隠したりするおそれのある場合には、裁判所に申立てをして、財産を保全してもらう方法もあります。 これには、現状の変更、物の処分の禁止等を命じてもらう調停前の仮の措置、また、審判の申立てをした上での審判前の保全処分、離婚裁判を前提として慰謝料や財産分与の履行を確実にするための民事保全手続きがあります。 調停前の仮の措置の申立てはご本人でも可能です(但し、裁判所の命じた措置に従わなくても、相手には過料が処せられるだけで、執行力ーたとえば命令に反した処分を無効とする効力ーはありません)。その他の手続きには執行力はありますが申立ては少し難しいので弁護士に依頼された方が無難でしょう。 相手がもうすぐ退職金などをもらうことが確実なときには、仮差押をしておいた方がいいこともあります。ただ、相手が勤務先にいづらくなるなど相手の損害も大きくなりますので、不動産や預金の仮差押に比べると要件が厳しくなり、離婚の判決を得て強制執行するまでに現在の勤務先を退職する可能性が大きいことなどの要件を充たすことが必要です。 C 別居後の生活の基盤を確保しましょう。 別居する前には、引っ越し先の住居、当座の生活費や弁護士に依頼したいときには弁護士費用を工面できるだけのお金を準備しておくことが必要です。生活していくためにはあなたも働かなければならないかもしれません。そのときは、子供をみてくれる親がいれば助かります。離婚の決着がつくまでは実家に戻るというのも一つの方法です。しかし、親がいない、親には面倒をかけられないという方も多いと思います。そのときは、引っ越し先を確保し、なおかつ子供を育てながら続けられる仕事を見つけることが必要です。親権が争われる場合には、子供を育てていくだけの経済力があるか否かということも親権者の判断基準になります。 D いよいよ家を出るときに気をつけること。 別居することを面と向かって相手に伝えることが難しいとき(伝えれば暴力や虐待が予想されるようなとき)には、簡単な置き手紙などを置いておけばいいでしょう。相手に無用の心配をかけないための最低限のエチケットです。転居先などを教えたくなければ書かない方がいいでしょう。但し、実家や親族の家に移るときは、相手が追いかけてくることもありますので注意が必要です。 持っていく物、持っていかない物の判別は難しいところですが、嫁入り道具の家財道具、衣類、装飾品などは前記のとおりあなたの特有財産ですので、持って出た方がいいでしょう。離婚の決着がつくまで長くかかるような場合、これらの物を置いて出て行くとなかなか返してもらえないことがあります。できることなら全部持って出た方が無難です。 共有財産については相手も必要な家財道具もあるでしょうから、持ち出せば相手の怒りを買うこともあります。しかし、子供を連れて出るときは子供の物(勉強机、鞄、教材など)は最低限必要ですから、持って出る方がいいでしょう。その他の共有財産については、できればどのように分けるかをよく話し合った上で、話し合いができない場合は双方に必要な物必要でない物をよく考え、持って出た方がいいでしょう。 別居は新たな生活のスタートです。 離婚における相手との闘いにおいては過去の生活を冷静に振り返る必要はありますが、生活の面では明るく前向きに新たな一歩を踏み出しましょう。 |
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3 離婚のための手続 |
<協議離婚> |
夫と妻の双方の話し合いで円満に離婚ができればそれにこしたことはありません。 離婚自体は、離婚届用紙に双方及び成年2人の証人が署名・捺印して、夫婦の本籍地または届出人たる夫、妻または双方の所在地の市町村役場に届け出ることによって成立します。但し、未成年者の子があるときは必ず親権者を決めて離婚届用紙に記載しなければならず、記載されていないと受理されません。 協議離婚自体は、離婚届を作成、提出して受理されれば成立します。しかし、協議離婚する際には、子供の親権だけでなく、財産分与、慰謝料、養育費についての合意もきちんと書面にしておいた方がいいでしょう。口約束でも合意は成立しますが、約束を守ってもらえない可能性もあります。証拠を取っておくためには書面を作成しておくべきです。但し、この書面は、調停が成立したときに作成される調停調書や裁判の判決とは異なり、たとえ書面に記載した合意内容を相手が守らなかったとしても、その書面に基づいて相手の財産を差し押さえることはできません。財産分与や慰謝料をお金でもらうときは、合意書を作成するのみでなく、できることなら分割ではなく一括で支払ってもらった方がいいでしょう。 相手がどうしても分割でなければ支払えないというときは、公正証書を作成しておくという手段もあります。公正証書を作成しておけば、分割の支払いが滞ったとき調停調書や判決と同様に相手の財産に対する差し押さえが可能となります。 また、将来にわたって支払われる養育費についても公正証書を作成しておくことが望ましいでしょう。 公正証書は公証人役場へ行けば作成してもらえます。 公正証書作成の必要書類や手数料はこちら(日本公証人連合会ホームページ)→ ![]() 具体的な取り決めについてなかなか話がまとまらないというときは、次に説明する家庭裁判所の調停を利用するという方法もあります。大筋では話がまとまっているのであれば、家庭裁判所に双方が1,2回出頭するだけで調停が成立することもあります。調停の場合、費用もかからず(次項参照)、調停調書作成の際には裁判官、書記官、調停委員が立ち会いますので安心です。ただ、家庭裁判所は非常に混んでいて、申し立てから第1回調停期日が入るまでにかなりの時間を要することが多いのが難点です。 |
![]() 万が一、離婚の話し合いが終わっていないうちに、あなたが先に判子を押して渡してしまった離婚届やあなたの印鑑を無断で押した離婚届を相手が勝手に提出してしまいそうなときは、戸籍係に離婚届不受理の申出(用紙は戸籍係にあります)をしておくことができます。不受理の扱いをしてもらう期間は6ケ月を超えない範囲で決めることができます。勝手に離婚届が提出されそうなときはこの不受理申出制度を利用するといいでしょう。 |
<調停離婚> |
相手との話し合いが双方の言い分のくい違いによりどうしても前に進まないときは、家庭裁判所の調停の利用を考えましょう。まだまだ日本には仲人、両親、親類、友人などに間に入ってもらうという慣行がありますが、実際には離婚で揉めている夫婦の間に入って話をまとめるというのは大変な仕事です。これらの方々に負担をかけたり無用の心配をさせることにもなりかねません。そういうときは家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てて第三者の調停委員に間に入ってもらった方が解決が早いことがあります。 離婚を前提とする夫婦関係調停調停の申立ての 必要書類、費用等についての裁判所の説明はこちら→ ![]() 申立書の記載例はこちら→ ![]() 調停では、双方が別々の待合室で待機し、交互に調停室に入って調停委員から事情を聞かれます。相手の暴力などが怖いときは、予め家庭裁判所にその旨説明しておくと、廊下などでも顔を合わせないですむように配慮してくれます。 また、調停の席で一から話をしなければならないとなると、どうしても時間がかかってしまいますので、相手と知り合って結婚してから調停申立てに至るまでの経緯をできるだけ詳細かつ読みやすい形式の(時系列にし結婚生活の出来事ごとに段落を区切るなどして調停委員がさっと目を通せば理解できるように)書面を作成して提出しておいた方がいいでしょう。 調停は通常1ケ月に1度位の割合で開かれます。しかし、相手が出頭せず、出頭する見込みも立たないときには不成立となります。相手を無理やり出頭させることはできません。調停は互いに妥協して解決点を見出せない限り成立しません。また、日本は調停前置主義を採用していますので、たとえ最初から調停の成立が見込めない場合でもいきなり離婚の裁判を起こすことはできません。 調停の手続自体は難しいものではありませんので、弁護士に依頼しなくてもご自身のみで可能です。しかし、なかなか思うように調停が進まない、調停委員が自分の言い分を理解してくれない、というような場合には弁護士に依頼した方がスムーズに手続きが進むという場合もあります。また、相手が弁護士に依頼して法的な主張をしてきたような場合にはそれに対抗するためにあなたも弁護士をつけた方がいいでしょう。 |
![]() 別居中の生活費(婚姻費用)は、離婚が成立するまで(あるいは再び同居するまで)、原則として請求できます(但し、有責配偶者からの婚姻費用の請求については支払義務を認めるべきか、有責性の程度に応じて分担の程度が考慮されるべきかなどの議論があります)。 婚姻費用についての話し合いができないときは婚姻費用分担の調停や審判の申立てをすることができます。 婚姻費用の金額について調停が成立しないときは家庭裁判所に審判で決めてもらうこともできます。調停が成立したとき、あるいは審判が出たときは、調停調書や審判書に記載された婚姻費用を相手が支払わないときはその給与などを差し押さえることもできます。 また、別居して当座の生活費にも困り調停の進行も待てないようなときには、家庭裁判所に対して調停前の仮の措置として生活費の仮払いを命じてもらうこともできます(但し、調停前の仮払いの命令には執行力がないため、給与などの差し押さえや取り立てはできません。10万円以下の過料の制裁があるのみです)。これに対して審判前の生活費の仮払いを命ずる仮処分の場合は執行力があるので、給与などの差し押さえや取り立てが可能です。 離婚が成立するまで(場合によっては長くなることもあります)のあなたと子供たちの生活のために、これらの手続きを利用して生活費をきちんと支払ってもらっておいた方がいいでしょう。 婚姻費用分担調停の申立ての 必要書類、費用等についての裁判所の説明はこちら→ ![]() 申立書の記載例はこちら→ ![]() |
婚姻費用や養育費のおおよその目安となるものとして平成15年3月に東京・大阪養育費等研究会が発表した養育費、婚姻費用の算定方法の提案(判例タイムズ1111号・285頁)というものがあります。この算定方式によって予め計算された簡易算定表は各地の家庭裁判所で利用されています。 しかし、これはあくまでも標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出することを目的とするものであり、各事案ごとの個別的要素は考慮されていません。この算定表を単純に適用することについては疑問の声もあり、現在上記研究会は実務の運用を通じて生じた問題点について修正を検討中ということです。そのためか、発表当時は東京家庭裁判所のHPにpdfファイルとして掲載されていた算定表が今は掲載されていません。 但し、この算定表は一応の目安にはなると思います。 |
調停期日に本人らが出頭して調停が成立すれば離婚は成立します。但し、報告のために、申立人が調停調書の謄本を添付して、調停成立の日から10日以内に市町村役場に届出をする必要があります。 |
<審判離婚> |
調停成立の見込みがないときは、家庭裁判所は調停に代わって離婚の審判をすることもできます。 離婚のみでなく親権者、財産分与、慰謝料、養育費などについても審判は可能です。確定すれば判決と同様の効力を持ちます。 しかし、審判告知の日から2週間以内に当事者の一方から異議の申立てがあると当然に審判は効力を失います。このため、審判離婚は全国で1年間に50件程度しかなされていません。 審判に適する事件としては、 @ 当事者間に離婚の合意が成立しているが出頭できないなど、何らかの事情により調停という形式を踏むことができない場合 A 合意のできない理由が主に感情的反発である場合 B 親権者の争いなどで、その時点における家庭裁判所の判断を示すことに意義のあるとき C 早期解決の必要性があるとき D 主たる争点が乙類審判事項(親権者、養育費、財産分与など)であるとき などです。 審判離婚の場合も、調停離婚と同様、審判書謄本と確定証明書を添付して、市町村役場へ届出をすることが必要です。 |
<裁判離婚> |
離婚するかしないかや、子供の親権、財産分与、慰謝料などについて双方の意見がくい違い、調停が成立しなかった場合には、裁判によって解決するほかありません。 裁判はご自身で行うことも法的には可能ですが、現実には主張や立証に専門的な知識や技術が必要になるので、弁護士に依頼するのが通常です。 裁判の場合、調停と異なり、ご本人が必ず裁判所に出頭しなければならないわけではありません。出頭の必要があるのは、当事者尋問のときと、和解期日にご本人の意向をその場で確認したいときなどだけです。 しかし、弁護士はあなたの主張をまとめた書面(準備書面)を裁判所に提出しなければなりませんので、弁護士との打ち合わせは十分に行う必要があります。 離婚事件の場合、他の事件に比べて、客観的な証拠が乏しいことが多く、ご本人の主張(離婚原因、共有財産形成への貢献、慰謝料などにかかわる結婚生活中の体験など)を具体的に記載した書面を作成したり、細かな生活上の事柄などについても尋問をして、裁判官に分かってもらう努力をすることが大切です。 これらは、弁護士に任せておけばできることではありません。 弁護士とは、面談、電話、ファックス、電子メールなどを利用して、十分な打ち合わせができるようにしましょう。 以下では、知っておいた方がいい裁判の手続きについての概略や人事訴訟法の主要な改正点をご説明します。 インターネットのHPでは、いまだ旧法における離婚裁判の説明がなされているものも見受けられますので、注意が必要です。 |
(1) 裁判の前には原則として調停をしておくことが必要。 離婚の訴訟を提起する前には調停を経る必要があります。調停を経ないで訴訟を提起すると、家庭裁判所の調停に付されます。 但し、次のような場合は例外として調停を経ないでも直接離婚の裁判を起こすことができます。 |
相手方が生死不明、行方不明、心身喪失の状態にあるなど、裁判所が調停に付することが不適当と認めたとき その他にも配偶者からの暴力がひどいため、調停という話し合いの場を持つこと自体が他方配偶者の精神状態に著しい影響を与える旨の医師の診断書が提出された場合に直接離婚の裁判を起こすことが認められた例があります。 |
(2) どこの裁判所で裁判を起こしたらいいのか。 平成16年4月1日施行の人事訴訟法により、離婚の裁判が地方裁判所から家庭裁判所の管轄に移されました。 どこの家庭裁判所で裁判を起こすことができるのかについては、次のとおりです。 |
@ 夫婦のどちらかの住所地の家庭裁判所 A 夫婦のいずれかが死亡していた場合には、その最後の住所地の家庭裁判所 B 調停が係属していた家庭裁判所でも、調停の経過、当事者の意見その他の事情を考慮して特に必要があると認められるときには、裁判をすることができることがあります(自庁処理)。 C @Aの家庭裁判所に裁判が起こされても、当事者などの住所その他を考慮して、訴訟の著しい遅延を避け、または当事者の衡平をはかるために必要があると認められるときは、当事者の申立てまたは裁判所の職権で他の家庭裁判所へ裁判が移されること(移送)があります。 例えば、一方の配偶者が転勤先で裁判を起こしたが、他方の配偶者は住所地で困窮した生活を送っているような場合など、経済的な格差により一方配偶者の出頭が困難となるような事情があるときは移送が認められることがあります。 なお、新法では、Bの自庁処理やCの移送の当否を検討する場合には未成年者の住所・居所が考慮要素とされました。 |
(3) 新法の主な改正点 人事訴訟法の上記管轄以外の主な改正点は次のとおりです。 |
@ 一定の場合に請求の放棄・認諾・訴訟上の和解も認められるようになりました。 改正前には離婚訴訟における請求の放棄は判例で認められていましたが、請求の認諾と訴訟上の和解は認められていませんでした。このため、認諾調書や和解調書による離婚は許されていませんでした。つまり、「和解離婚」というものが認められていなかったため、裁判所で和解が成立しても離婚手続は調停離婚や協議離婚届の提出などによっていました。 しかし、今回の改正により両当事者が直接裁判所に出頭することを要件に訴訟上の和解による離婚(「原告と被告は本日離婚する」との和解条項による離婚)も認められました。また、親権者の指定・財産分与などの附帯処分などを必要としない場合には当事者の出席を要件として「請求の認諾」も認められました。また、「請求の放棄」は当事者の出席を問わず擬制陳述によっても認められました。 但し、訴訟上の和解をするには未成年者の親権者指定と併せてでなければできないし、請求の認諾については親権者指定がある事件についてはできないとされています。 A 一定の事項について家庭裁判所の調査官による調査などが可能になりました。 子の監護権の指定・養育費の額などの「子の監護に関する事項」 「親権者の指定に関する事項」 「財産分与に関する事項」 については調査官による事実の調査が認められ、具体的な事案に応じた柔軟な証拠収集方法が可能になりました。 但し、事実の調査をするかどうか、するとしたらいつ、どのような時期になされるか、は裁判所の裁量によるとされてます。 調査の方法としては、調査官による当事者や子供の面接や心理テスト、関係者からの子供の日頃の様子の聴取、裁判所が当事者・関係者を直接裁判所に呼んで事情を尋ねる審問、裁判所から官庁や銀行などに対する照会などが考えれます。 なお、新法では、15歳以上の未成年者について親権者指定、監護者指定などをする場合には、子の陳述を聴かなければならないとされました。 B 参与員が関与することがあります。 裁判所が必要があると認めるときは、参与員(民間人)を審理又は和解の試みに立ち会わせて、事件について意見を聞くことができるようになりました。 これは国民の良識を反映させるための制度です。 C 当事者尋問などの公開停止が可能となりました。 私生活上の重大な秘密にかかるものについては、当事者尋問などの公開停止ができるようになりました。 公開停止には次のような要件が満たされる必要があります。 イ 当事者もしくは証人が公開の法廷で陳述することにより、社会生活を営むものに著しい支障が生じることが明らかであるから、そもそも公開の法廷では十分な陳述をすることができず、 ロ 当該陳述を欠くことにより他の証拠では身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判ができないとき D 附帯処分事項などの扱いが変わりました。 イ 前記Aのように一定の附帯処分事項について調査官による事実の調査などが活用できるようになりました。 ロ 離婚訴訟中に協議離婚が成立しても、附帯処分として申し立てられていた財産分与や養育費の請求部分は当然には終了せず、引き続き審理・判断しなければならないとされました。 ハ 判決が確定した附帯処分事項についての義務について、調停・審判で定められた義務についてと同様に家庭裁判所の履行の確保制度を活用できるようになりました。例えば、養育費などの履行の確保のために履行勧告、履行命令の制度が利用できるようになりました。 |
(参考文献) 離婚問題法律相談ガイドブック 2006年 (東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会発行) 新人事訴訟法 要点解説とQ&A (新日本法規出版株式会社発行) 池内ひろ美の離婚相談所 (日本実業出版社発行) |
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続 く |
離婚のはなし その2 には、 離婚原因 離婚と氏 離婚に伴う子の問題(親権・監護権、養育費、子の引き渡し、面接交渉など) 離婚給付(財産分与、慰謝料、離婚時年金分割制度など) について記載する予定です。 |